もしグロ 〜もし管理栄養士の女性社員がヘルスケアアプリの「グロースハック」をしたら〜

これは管理栄養士からグロースハッカーに転身したとある女性社員の奮闘記である

第5話 たんたん、分析をする

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大切な前置き

 このお話はフィクションです。実在の人物や団体、事件などとは一切関係ありません。

埋まるダッシュボード、そして

 たんたんがダッシュボードを作ってから数週間して、その新機能はリリースされた。

 たんたんは期待を込めて日々ダッシュボードをチェックしたが、新機能の成果は残念ながらイマイチだった。ひどいというわけでもないが、社内で期待されている効果は下回るという状況だったのだ。

 そして、それはたんたんの出番がやってきたということを意味していた。

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「伸びぬなら、伸ばしてみせよう、KPI」

 何故か俳句を詠みながら、たんたんはデータとのにらめっこを始めた。

たんたんの分析

 それから3日間、たんたんは新機能とデータとを見比べてひたすらうんうんと唸っていた。

 たんたんは自覚していなかったが、それはたんたんにとって初めてのデータ分析作業であった。グロースハッカーが新しい案を出すためにデータを分析するようになるというのは、とても自然な流れである。

 たんたんはデータを見て、KPIが伸びないことについて思いつくありとあらゆる仮説を並べた。大きな仮説から小さな仮説まで、その数はゆうに100を超えた。

 そしてその仮説群を、新機能の担当のプランナーであるがみーさんに見せに行くことにした。

 たんたんは、がみーさんこと石神誠が厳かな人物であることは十分に理解していた。現に新機能のグロースハックにアサインされたときは、彼に対しての畏怖により身構えたものである。

 しかし、このときのたんたんは自信があった。これだけデータとにらめっこして大量の仮説と示唆を出したのだ。彼が納得するには十分であろう。

たんたん、散る

 こっぴどく撃沈したたんたんがうなだれた様子で席に帰ってくるのはそれから10分もしないうちであった。

 100を超える仮説の一覧を見せたたんたんはそれぞれの仮説と元になったデータをとうとうと語り始めた。しかし3つ目に差し掛かるところでがみーさんはそれをとめ、静かな声で「で、結論は?」と訪ねたのだ。

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(結論。結論は、この100の仮説なんだけれど。。。)

 答えに詰まるたんたんに対してがみーさんが次に質問したのはメンターの名前だった。よりーさんの名前を告げると、彼は自分のPCのディスプレイに視線を戻しながら冷たく言い放った。

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「彼に言っておくよ。ちゃんと仕事しろとね。」

 こうしてたんたんは、完膚なきまでに打ちのめされて席に戻ったのだった。

その様子に気づいたのか、よりーさんが席によってきてたんたんに声をかけた。

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「どうしたの?」

 たんたんは先程のがみーさんとのやり取りを説明した。

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「なるほどねー。ここのところ大丈夫そうだったし、ちゃんと見てなくて申し訳なかったね。」

プランナーが求める分析

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「今回ダメだったのは、プランナーが求めているものと違うものを持っていってしまったからなんだ。」

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「プランナーが求めるもの?」

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「結論から言うと、プランナーは『次に自分たちが何をするべきか?』が知りたいんだ。」

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「それはわかってます。だからデータから考えられる仮説をいっぱい持っていったんです。」

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「例えば自分が病気になって病院にいったと考えてみて。色々と検査を受けて、その結果をもとにお医者さんが検査結果から考えられる可能性をいっぱい教えてくれたとする。
 それで『そういうわけであなたの身体は今こういう状態です。』って教えてくれて、そこで終わったらどう思う?」

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「結局私はどうすればいいの、って思います。」

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「だよね。つまり今回たんたんがやっちゃったのはそういうことなんだ。
 これまでやってきたグロースハックの作業を考えてみて。データを見て仮説を出して、その後に次に何をやるかを考えてから行動をしていたよね。」

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「たしかに。」

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「がみーさんはたんたんが持っていった色々な仮説を聞きながら『この子はいつになったら結論を話すんだろう』って思ってたんだ。そしておそらくそれが話されないだろうなって考えたから話を打ち切ったんだろうね。」

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「そうだったんですね。」

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「要するに、データ分析というのは指針づくりなんだ。自分たちが次に何をすればいいか、何をしてはいけないかを示すところまでがデータ分析で、プランナーが求めているのはそれなんだ。プランナーだってもちろんKPIは見ているから、その上で何をするべきかっていう具体的な示唆がほしいってことだね。」

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「私、まだまだでした。」

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「お互いに仮説を持ち寄って議論しながら次の方針を決めるということもあるし、むしろそちらのほうが多いんだけど、それであればそういう趣旨で話をしに来ているということを最初に言わないとだめだね。」

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「なるほど。たしかに、私はそういう話し合いにつながるかと思っていました。でもがみーさんはそういう場だと思っていなかったんですね。」

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「そうだね。まとめると、プランナーと接するときに考えなくてはならないのは2つだ。1つは次に何をするべきかにつながる話をすること、もう1つは議論がしたいのか、示唆を伝えたいのかのどちらなのかを明確にすること。」

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「わかりました!!!」

花盛りな金曜日

 よりーさんの説明により次に自分がすべきことが明らかになり、たんたんの気持ちは少し楽になった。しかし、再度の分析の後に改めてがみーさんに話に行くのはどうしても緊張してしまいそうだった。

 そんな気分でいると、よりーさんから突然今夜飲みに行こうと誘われた。まずはぱーっと飲んで忘れようという気遣いなのだろうと思い、たんたんは感謝とともに合意した。

 そうした経緯で、店について座席で2人で飲んでいると、ほどなくして1人の人物が現れた。その人物は誰あろう、まさしくがみーさんその人だった。

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「先に飲んでるよー」

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「突然飲みに誘われたと思えば。そういうことか。」

 がみーさんはよりーさん側の席に座り、こうして3人で飲み会がスタートした。

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(私、どうなっちゃうんだろう。。。。)

そして、飲みニケーションへ

 3人での飲みが始まった時はただただ説教をされる会になるのかと思い逃げ出したくなったが、実際にはそうはならなかった。

 席についてすぐに運ばれてきたビールを一気に飲み干したがみーさんは、昼間の厳格な彼からは想像もつかないレベルで豹変したのだ。

 何がおかしいのかひたすら笑い転げながら、次々とビール瓶をあけていった。飲みながら、もっとこうした方がいいとかああした方がいいというのをたんたんにひたすら教えてくれた。

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「分析始めたらまずみんなああいう失敗するからね!そんな気にしなくていいよ!次は期待しているよ!あははははははは」

 話によると、よりーさんとがみーさんは、この会社の同期入社らしい。がみーさんは極度の笑い上戸で、酒が入ると一瞬で豹変して陽気になり、一気に仲よくなれるということらしい。

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(まるで非ヘム鉄ね。ビタミンCと一緒に摂ると吸収率が高まるように、彼と話すにはお酒と一緒がいいのね。)

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「うちはヘルスケア企業だから、あまりお酒を勧めるわけにも行かないんだけどね。でもこうして関係者と仲良くなっておくのも円滑なお仕事のためには必要なことだよ。」

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「よりー、後輩の前だからっていいこと言うじゃんか!酒足りてないんじゃないか?あはははははははは。」

 こうしてたんたんは、大人の世界の渡り方を少し理解したのだった。

次回予告

 プランナーと打ち解けて徐々にグロースハックの成果を出していくたんたん。しかしある日上長であるゆっつーさんから出された何気ない課題に対して答えに窮することになった。

 さあ、たんたんの明日はどっちだ!