第6話 たんたん、自分を定量化する
大切な前置き
このお話はフィクションです。実在の人物や団体、事件などとは一切関係ありません。
たんたん、ふわっとする
プランナーのがみーさんとのやり取りでさらに成長したたんたんは今日も元気にグロースハックに精を出していた。
そこにチームリーダーであるゆっつーがひょっこりやってきた。
「お疲れさま。最近調子はどうですか?」
「元気にやっています。それに、グロースハックの方でも結構いい感じに成果がでてきたんです。」
たんたんは得意げに彼女のグロースハックにより入会後のユーザーの継続率が少し伸びたことを示すグラフをゆっつーに見せた。
「いいですね。では、1つ質問です。そのグロースハックは、会社にどのくらいの利益を与えたかを計算してみてください。」
ゆっつーが何気なく出したこの課題は、たんたんにとってはとても難しいものであった。
たんたん、悩む
がみーさんたちのようなプランナーは自分たちの施策の売上で会社の利益を出す。てくてくさんや翔くんといったエンジニアは作った機能が売上に繋がるからそれで利益を出す。
そうやって出した利益を経費が下回れば会社は儲かり、それがその人達の貢献になる。
では、グロースハックの成果はどうやって測ればいいのだろうか。アプリの継続率が50%から60%に上がったら、それはいったいどのくらいの利益になるのだろう。
「困った時はよりーさんね」
たんたんはよりーさんの元へと向かった。
分析の成果を定量化しよう
「なるほど。それを考えるのはとても大事だね。」
「はい。でも、どう考えればいいのかわからなくて。」
「そういうときは、金額に換算できるものと比較するんだ。」
「と、いいますと」
「ここから先をちゃんと説明するためにまず前置きなんだけど、今から出す数字はあくまで例を出すためのでたらめな数字なので、実在の団体や企業の内部の数字とは何も関係がないということだけはしっかりと肝に命じてほしいんだ。」
(な、なんか怖い)
「もう一度繰り返すよ。今から出す数字はあくまで例を出すためのでたらめな数字なので、実在の団体や企業の内部の数字とは何も関係がない。」
「は、はい。。」
「さて、大切な前置きも終わったところで早速始めよう。今回は入会したユーザーのアプリの継続率が上がっているということになるよね。だから『それは◯◯人を入会させたのと同じくらいの効果です』って言いかえることができるよね。」
(よかった。もとに戻った)
「例えば1日に1000人が入会して、翌日以降の継続率が70%だとしよう。そこで改善により継続率が80%になったとする。そうすると、継続してくれるユーザーは100人増えるよね。」
「継続者が100人増えるためには継続率が70%の状態であれば140人くらいを入会させる必要がある。」
「だから、継続率を80%に増やしたというのは、入会者を140人に増やしたのと同じくらいの効果っていうことになるね。そして、FUは広告を掲載してユーザーに入会してもらうということをしているんだ。ということは?」
「今、いくらの広告費をかけて何人に入会してもらってるかがわかれば、1人の入会が何円の価値になるのかがわかりますね!」
「すばらしい。そのとおりだよ。しかも、改善の効果は毎日発揮されるから、今回の例だと1日あたり140人分の効果があるんだ。それも加味して計算すればいい。」
「ふむふむ。」
「補足すると、アプリに限らず大抵のサービスにおける『ユーザーの定着』とは入会から一定の期間か、特定の行動をするまでユーザーが残ることを意味している。その地点まで進んでくれたユーザーの人数で広告費を割った金額が定着ユーザー1人あたりにかけた広告費として考えるんだ。だから、改善によってその地点まで進んだユーザーがどの程度増えたかを考えればいいね。」
「なるほど!」
「実際に今1人のユーザーにいくらの広告費をかけているかは、マーケティングチームに聞いてみてね。」
「わかりました!」
たんたん、計算する
こうして、マーケティングチームから情報をもらい、たんたんは教わったとおりの計算を始めた。
(そういえばよりーさんに忘れずに独り言を言えって言われていたことがあったんだった)
たんたんはメモを取り出し、大声で読んだ。
「これはあくまで具体的な例を示したほうがわかりやすいための仮の数値であり、実在の人物や団体、事件などとは一切関係ありません」
現在FUがユーザー1人あたりのインストールにかけている広告費は200円である。これらのユーザーの1日目の継続率が50%から60%に上がったとしたら、1000人の入会者がいたら2日目に残るユーザーは100人増える。100人増えるというのは、1日目の継続率が50%だった場合を考えれば200人をインストールさせたのと同じである。
つまり、この例だとグロースハックによってあげた利益は1日につき200円 x 200人で40000円になる。このように計算することで、グロースハックの成果を金額に換算することが出来る。
「これはあくまで具体的な例を示したほうがわかりやすいための仮の数値であり、実在の人物や団体、事件などとは一切関係ありません」
一息つく度にこの言葉を繰り返せという謎の指令を、その後もたんたんは忠実に守った。
分析の成果を定量化する理由
「そんなわけで、私のグロースハックの成果は金額に置き換えるとこのくらいです!!」
「すばらしいです。ではもう一つ質問です。分析の成果を金額に換算してもらったのは、何故だと思いますか?」
たんたんは言葉に詰まった。どうやってやるのかはわかったが、何故やるのかまでは全く考えていなかったのだ。
「ヒントを出しましょう。金額に換算すると、あることが出来るようになります。」
そこまでヒントをもらえば、今のたんたんにはその答えにたどり着くのは簡単だった。今に至るまでに、色々な職種の人々と関わった経験があったからだ。
世の中に様々な栄養素があり多様な効果効能を発揮している。それと同様にF社には色々な人々がいる。彼らは様々な職種で、様々な方法で会社に貢献している。
「わかりました!比較ができるようになるんですね!」
「そのとおりです。グロースハックは営業職のように、直接モノを売るお仕事ではありませんし、エンジニア職のようにモノを作る仕事でもありません。
だから、それぞれの人たちが出している成果を同じものさしで比較出来るようにする必要があるんです。そうすることでようやくお互いが使っている費用や時間が正当なものかどうかが議論出来たり、人事評価が出来たりするんです。」
たんたん、定量化にハマる
たんたんは定量化して比較するということの意味を理解した。そうすると、あらゆるものを定量化して比較したくなるのは当然のことであった。
帰宅し、布団に入ってから、考える。
キッチンでてくてくさんが作ってくれる料理はとても美味しくて評判だからきっとお金に換算してもとても価値がありそうだ。ゆっつーさんが時々持ってきてくれるお菓子も同じくらい価値があるかもしれない。よりーさんがオフィスで育ててるバジルは、見目麗しいけどお菓子よりはちょっと下かな。
いや、そもそも金額に換算する必要はあるのだろうか、比較できればいいんだから金額で揃える必要はないんじゃないか。そう、例えば幸福度とか満足度みたいな。
たんたんの脳内で、様々なものが次々と別の尺度に変換されていった。変換されて変換されて、そして変換のしすぎでヒートアップした脳が知恵熱をあげて、たんたんはそのまま眠りについた。
次回予告
かつての知り合いから相談を受けたたんたん
かれらのおねがいを、なんとかしてかなえてあげたい
しかし、それにはひとり、たちむかわなければいけない相手がいる
次回、もしグロ。「たんたん、分析基盤と出会う」
グロースハッカーの、悲しくて、優しい物語