最終話 これからグロースハッカーになろうとしている人たちへ
大切な前置き
このお話はフィクションです。実在の人物や団体、事件などとは一切関係ありません。
時は流れて
それからしばらく、たんたんはグロースハッカーとして充実した生活を過ごした。日々のグロースハックによりアプリのユーザーは増え、会社の業績は少しずつ上向いていった。そうやって着実に成果をあげられるようになってからの日々は、とても早く感じた。もちろん日々学ぶことが多く、飽きることはない。
さらに時は流れて年の瀬になり、グロースハックチームも徐々に年越しの準備に入っていった。年内に行うことと年明けに行うことを分け、ぽつぽつと発生する忘年会などのイベントを各自がそれぞれこなしていった。
そして、気づけばF社の年末の大イベントである、全社忘年会の日になっていた。
F社大忘年会、前半
F社の忘年会は、大きく2つのステージに分かれる。
前半は真面目な時間である。その年の業績がどうだったかや、来年に向けての意気込みなどを各事業部のリーダーや社長が発表する。
そして、後半は楽しい時間だ。美味しい料理とお酒が振る舞われ、豪華な商品をかけたクイズ大会が行われる。そして、最後にもう一つ大きな催し物がある。
そうして前半部分が始まった。まずはCEOが皆の前に立った。
CEOである水瀬は覇王のような覇気を全身にまとった人物である。普段以上に凄まじい覇気をほとばしらせながら、全社員の前で今年の業績と、来年度の目標と、ヘルスケアという部門についての自分の熱い思いを述べた。
続いて各事業部のリーダーが、目標を達成するための具体的な戦略などを述べていった。皆、時々合いの手を打ちながらそれを聞いていた。
F社大忘年会、後半
そして後半が始まった。豪華なお酒とともに運び込まれてくる料理は、社内の料理人たちが腕をふるって作った健康的な食事である。揚げ物などのハイカロリーなものが一切存在しない飲み会の様子は、ここがヘルスケアに従事する企業であることの確かな証明だ。
楽しいクイズ大会が終わり、最後の最後、一番重要な催し物の時間がやってきた。今年1年で最も活躍した社員を表彰する時間。MVPの発表である。
ドラムロールとともにスポットライトが右に左に会場を照らす中、たんたんはこの一年を振り返っていた。
この一年は本当に色々なことがあった。突然の異動、何もかもが新しいグロースハッカーとしての業務、いろいろな方々との出会い。たくさんの嬉しいことや、楽しいこと。
だから、ドラムロールが止んだ時、スポットライトが自分の身に当てられていたことに、たんたんは少しの間気づかなかった。側にいたよりーさんに方を叩かれて、ようやく事態に気づいたのである。
年間MVPたんたん
そこから先のことは、あまり記憶がなかった。自分をMVPに推薦してくれた人たちからのメッセージのムービーが流れ、大勢の人に讃えられながら前に出た。その後、相変わらずものすごい覇気をほとばしらせるCEOからMVPの賞品を受け取ったのをぼんやりと覚えている程度だ。
司会に促されて自分の想いを言葉にしたが、それもなんと話したのかまったく覚えていなかった。その後にいろいろな人にお酒を注がれて、大して強くもないお酒をついつい飲んでしまい、気づいたら記憶を失ってしまったのだった。
ただ、なんとなく確信していることがある。それは、その時全社の前で語った、自分の想いだ。
はじめは不安だったこと。
少しずつグロースハックという作業にのめり込んでいったこと。
自分が求められていたことを知ったときの嬉しさ。
いろいろな方々との出会いへの感謝。
これからもこのチームとこの会社で頑張っていきたいという強い想い。
きっと自分は、そういうことを言ったのだと思う。
贈る言葉
たんたんは、その後もヘルスケアに深い造詣を持つグロースハッカーとしての日々を送っている。管理栄養士からグロースハッカーへと職種を変えても、人々を健康にしたいという想いは変わらないままだ。
彼女には自分の1年間のグロースハッカー生活を通して、確信したことがあった。
それは、技術が進歩して機械学習などが発展して、人の仕事の意義が問われている昨今でも、結局は人の心が何よりも大切なのだということだ。
世の中の人を健康にしたい。より良い世界にしたいという彼女の想いこそが、彼女を年間MVPへと押し上げた原動力だった。
技術があるのは必要なことだ。知識も多いに越したことはない。統計に詳しいことも大切なことだ。しかし、人の想いはそれに勝る。
彼女のように、その業界や分野に強い想いがある人がもっともっとグロースハックという領域に参入してきてくれたならば、世界はもっと豊かで、より良いものになるだろう。